【宍粟の造り酒屋】地元に根づき共に生きる老松酒造地酒物語

【宍粟の造り酒屋】地元に根づき共に生きる老松酒造地酒物語
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    旧山崎町山崎地区の西側にあたる西町地区は、酒造りでにぎわった江戸時代の街並みが残されている。通りでひときわ伝統的風格を放つのが、山崎町で最も古い建造物と記録されている老松(おいまつ)酒造。明和6年(1768年)創業し、山崎藩御用達を務めた造り酒屋である。

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    城主に献上する酒を納める木箱が保存されている

    兵庫県の中西部に位置する宍粟市の人口は4万人。東京都23区とほぼ同じ659平方キロメートルにわたる面積のほとんどを山林が占める。当然のことながら林業に携わる人々が多い土地柄。「一日働いたら、後は旨い酒をぱぁっと一杯やろう!」という晩酌に欠かせない存在、それが老松(おいまつ)酒造の酒だ。

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    老松酒造の「寿恵広(すえひろ)老松(おいまつ)」は、250年間という長きにわたって地元の人たちに親しまれ愛されている。 「熱燗が最高なのですよ。」と、語られるのは前野久美子専務。旨い熱燗の方法を教えてもらった。沸騰したお湯に日本酒をつけ、火を弱める。燗する時間は4分間。取り出したら1分間じっと待つ。この1分間に酒の濃度が均等になり、旨味がぐっと増すそうだ。

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    一升瓶のほかに手ごろなサイズの300ミリリットル入りがある。 「瓶ごと燗をして美味しい日本酒が楽しめますよ。」前野専務が一番好きな飲み方だという。 山仕事を終えた(おとこ)たちは、豪快に一升瓶をあおったのかもしれない。しびれるような寒さの季節は、やかんの直火燗で凍った身体を温めたのだろう。

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    奥播磨かかしの里・岡上氏による善次郎人形が蔵の前で出迎えてくれる

    寿恵広(すえひろ)老松(おいまつ)がさらりとした飲み口の飽きない酒なら、古酒「善次郎」は特別な日にふさわしい。蔵で5年間の眠りにつき、熟成される。琥珀の色合い、個性的ともいえる芳醇な香り、洗練された味わいのあと余韻に満たされる。4代から8代の蔵元が襲名した善次郎から名前がとられた酒だ。

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    日本酒発祥の地「庭田神社」宍粟市一宮

    古酒「善次郎」は、和食に限らずフレンチやイタリアンなどの洋食にもふさわしい華やかさがある。旬の魚にペパーとレモン汁をかけたスペインのバール風料理もぴったりくる。秋が深まれば脂ののった坊勢鯖を酢で軽く締めて、「善次郎」の肴にしたいものだ。チーズとの相性も群を抜いている。冷酒ならブリーチーズやモッツァレッラ、ぬる燗にはコクのあるコンテといったハードチーズをおすすめしたい。

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    高い天井と太い梁。袋吊りに使われていた。

    宍粟市が酒造りに適した立地は言うまでもない。氷ノ山、三室山、後山などの名山から流れ込む揖保川、千種川の豊かな水。海抜150メートルに位置する盆地なので神戸や大阪にくらべ3度から5度くらい低い平均気温。そして日本有数の酒米どころ。これらの揃った自然条件に加え、丹波杜氏の真摯な酒造りへの情熱(おもい)が加わる。コンピューター制御や機械に頼ることはない。伝統的に受け継がれた熟練の技と経験に培われた卓越した直感が、老松の酒を創る。

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    酒造見学は通年できるが、仕込みの間の10月から1月は蔵の外からになる。それ以外の時期なら前野専務がわかりやすい解説付きで蔵内を案内してくれる。洗米、浸漬(しんし)、蒸米、麹つくり、酒母つくり、仕込、上槽(じょうそう)(もろみ)を搾る作業)といった酒造りの工程がすべてわかる。巨大な石の基礎に乗った柱、想像以上に大きな梁が見られる蔵は、ひんやりしていた。訪問したのは、連日の猛暑が続く夏の真昼だというのに。

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    この日は15時から、団体の酒蔵見学が予定されていた。阪神方面からチャーターバスで15人が訪問されるという。老松酒造の主要銘柄が見学者を歓迎して勢ぞろいしていた。和歌山県産完熟南高梅で作られる梅酒や、高知県浅尾で無農薬栽培されたゆずの酒も人気だという。麹を使った発酵商品の開発にも力を注いでいる。酒蔵もろみを試食させてもらった。老松こうじをベースに、ピーマンやニンジンの野菜の旨味が溶け込み、唐辛子のアクセントが効いている。

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    兵庫県景観形成重要文化財に指定されている主屋は、資料の展示や販売スペースを兼ねたギャラリーに改装が進められている。リノベーションを機に住居部分の座敷と日本庭園が公開される。1枚の板から作られた継ぎ目のない繊細な組子細工、茶道具をモチーフにしためずらしい欄間など歴史の重みを感じられる座敷は、ぜひとも観てみたい。腰を下ろしてくつろげるカフェの計画もあるという。2019年1月末頃の完成予定が楽しみだ。


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    老松酒造では毎年ゴールデンウィークに、「蔵開き」を開催している。酒蔵見学や無料試飲などで地域の人々をおもてなす。2018年の蔵開きは5月3日から5日まで開かれ、西アフリカ・ギニア共和国のタイコと歌、アルーラの和太鼓、NADIAの応援コンサートなどのステージイベントでにぎわった。大歳(ださい)神社の千年藤が見頃と重なり、宍粟市がはなやぐ定番行事になっている。

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    秋になると、最上山(さいじょうさん)もみじ祭りでこの界隈が大勢の人出でにぎわう。山全体が情熱的な真紅に彩られる様は、県下でも屈指の紅葉スポットに数えられる。2018年は11月17日から25日に開催され、老松酒造も例年通り祭りを盛り上げる立役者になる。宍粟で酒といえば老松の名があがる所以は、地域と共に生きる造り酒屋として気取りのない粋を貫いてきたからなのだろうか。

    酒蔵store 老松酒造有限会社
    住所place 兵庫県宍粟市山崎町山崎12 MAP
    定休日event_busy 日曜日
    電話番号phone 0790(62)2345
    営業時間query_builder 8:00~17:00
    HPlink 公式ホームページ
    駐車場chat 有(無料)
    2018年10月 3日時点での情報です。
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