【三木】"兵庫の酒米『山田錦』生産システム"が日本農業遺産に認定!Vol.5|②熟成古酒で世界的評価を得る「稲見酒造」
三木から有馬へと向かう湯の山街道は、戦国時代に豊臣秀吉が負傷兵を有馬温泉へと運ぶために整備したとされる由緒ある街道です。
その歴史情緒溢れる街道沿いに明治22年創業の1軒の造り酒屋があります。
ここは、山田錦の生産量日本一の三木市内に唯一残る老舗酒蔵。
創業以来、品質本位を掲げ、手間暇かけた良質な日本酒を造り続けてきました。
伝統的な酒造りを守る一方で、山田錦の純米吟醸酒を熟成させた古酒の醸造に取り組み、世界トップクラスの権威あるコンクールで数々の賞を獲得。
そのまろやかで深い旨みと芳醇な香り、キレのある後味は日本酒のイメージを刷新するインパクトがあります。
そんな古くて、新しい酒蔵を訪れ、山田錦で醸す日本酒の可能性を伺いました。
山田錦の名産地で「土地の風土で醸す」酒造り

1929年頃に建造された店舗兼主屋や土蔵、明治中期の熟成蔵など、稲見酒造の建築群が2025年11月、国登録有形文化財(建造物)に登録されました。
湯の山街道に面する店舗兼主屋は2階建で、外壁は黒漆喰で塗られており、間口が長大で重厚な外観に歴史を感じさせます。
稲見酒造の商標は、酒造りの神様を祀る京都・松尾大社の神紋である「葵」と瑞鳥の「鶴」、験が良いこの2文字を冠した「葵鶴」。
その旗標は「土地の風土で醸す」。
山田錦の特産地にして、冬場の寒さ、米が育った土地と同じ水系からの仕込み水と、酒造りに理想的な風土で醸造された地酒であることを表しています。
粘土質でマグネシウムなどミネラル分を豊富に含む土壌、山に囲まれ東西に伸びる谷状の地形など、山田錦の栽培に恵まれた気候風土を持つ三木市。
盆地特有の冬場の厳しい冷え込みは、雑菌の繁殖を防ぎ、低温でじっくりと発酵させる低温長期発酵が可能になるなど、酒造りにとっても最適な環境です。
土地の風土で醸した稲見酒造のお酒の中でも、最高品質の地元産山田錦の心白だけを十分に溶かして丁寧に醸した純米大吟醸「酒壺(みき)」は、蔵を代表する銘酒。
近年一般的な蒸米・麹・水を3回に分けて投入する三段仕込みに対して、稲見酒造で長年培われてきた四段仕込み手法で、手間と時間をじっくりかけて仕込まれています。
米本来の奥行きのあるまろやかな旨味とキレのある酸味のバランスが絶妙。
飲み進めるごとにふくらみを感じ、余韻が楽しめる「酒壺(みき)」は、GIはりま認定酒として、フランスパリで行われた「KuraMaster2024」で純米大吟醸部門プラチナ賞を受賞しました。

1989年に三木市が山田錦の生産量が全国1位になったことを記念して生まれた「酒壺(みき)」は、40年近く愛され続けてきたロングセラー。
播磨国風土記にも記されている三木市の地名伝説から命名されました。
4代目が試行錯誤を重ねた熟成古酒


「KuraMaster2024」古酒部門で金賞を受賞した熟成20年の「AOI CLASSIC」(左)と、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)でシルバー賞を受賞した熟成9年の「大吟古酒」(右)。
創業以来の品質本位という社是を守り続ける中で、4代目の稲見秀穂さんは山田錦を使った熟成古酒の研究に力を入れてきました。
そのきっかけは、「その年の新酒と前年のお酒では、どうしても味わいが少し変わってしまいます。
酒質の変化をできるだけ均一化させるため、以前から貯蔵した古酒を新酒にブレンドしていました」とのこと。
これは、アッサンブラージュと呼ばれるワイン業界では伝統的な手法で、やはり品質を安定させるための技術です。
貯蔵されていた古酒は、まろやかで深みのある飲み口でおいしかったことから興味を持ち、長期熟成酒研究会に参加。
1985年に設立されたこの研究会は、温度や光が熟成酒の品質に与える影響、熟成香の発生メカニズムなどを研究し、劣化を防ぎつつ熟成を促す再現性のある技術の確立に向けて研究を重ねています。
熟成は長ければ長いほど良いとは言い切れない面があり、ある程度の熟成が進んだら低温で寝かせて、また頃合いを見て熟成させるといった試行錯誤が欠かせないのだとか。
ある日本酒鑑定官によると「明治時代に建てられた稲見酒造の土壁の蔵の中では、温度や湿度などがゆっくりと変化するので、いい塩梅に熟成が進むのかもしれない」との意見もあり、精米歩合などの設計、熟成環境の温度や湿度、瓶やタンクといった容器など、さまざまな環境で変化し、予測できない難しさがあるのだそうです。
世界最大規模のコンテストで高評価を獲得

2017年から開催されているフランス主催の和酒コンクール「KuraMaster」の審査員はフランス国家が最高職人の資格を証明するMOFの保有者をはじめ、一流ホテルのトップソムリエやレストラン関係者など。
飲食業界のプロフェッショナルから評価され、「AOI CLASSIC」は古酒部門ゴールド賞を受賞しました。
さまざまな試行錯誤、研究を重ねたうえ仕上がった稲見酒造の熟成酒は、世界最大規模にして、世界最高峰とされるお酒の品評会IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)に初出品し、見事に受賞を果たしました。
受賞酒は低温貯蔵と常温での熟成を組み合わせて9年以上じっくりと熟成させた「大吟古酒」。
すっきり優しい口当たりとキレのある後味が特長で、チーズやドライフルーツ、風味の濃いお料理との相性も抜群。
見た目にも美しい青冴えした色の純米大吟醸の熟成酒です。
直近では、IWCの古酒部門2022年と2023年の2年連続でシルバー賞を獲得しています。
さらに、山田錦100%の純米大吟醸を20年熟成させた最高の熟成酒「AOI CLASSIC」が、「KuraMaster2024」古酒部門で金賞を受賞。
山田錦の旨みを最大限に引き出した深みのあるコクと柔らかい口当たり、芳醇な香りが楽しめるこの熟成酒は、フランスのトップソムリエを唸らせる仕上がり。
キラキラと輝く琥珀色で特別な日のお祝いにぴったりです。
「KuraMaster2024」では、前述の「酒壺(みき)」と「AOI CLASSIC」がW受賞する快挙を成し遂げ、稲見酒造の名は世界に知れわたるようになりました。

4代目の稲見秀穂さんと共に歴史ある蔵を支える取締役の稲見恵子さん。
山田錦のポテンシャルを開拓する老舗の挑戦

130年以上もの歴史と伝統を守りながら、常に進化を続ける稲見酒造。
世界的なコンクールで評価されたこともあり、現在は海外のバイヤーやファンが、直接買い付けに訪れることも増えたといいます。
すべての受賞酒には地元産の山田錦が使われており、稲見酒造の品質の高さを語る上で、酒米の王者、山田錦の存在は欠かせません。
「心白が大きく、雑味のもととなるタンパク質や脂質が少ない山田錦だけで醸したお酒は、熟成させることで、より奥行きのある旨みが増し、味わいに膨らみが生まれます。山田錦は最も熟成に向いた酒米だと感じています」とのこと。
長期熟成酒研究会では「満3年以上酒蔵で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を古酒の定義としています。
すぐに商品にならないうえ、熟成の期間中はたゆまぬ研鑽と労力が欠かせないデリケートな熟成酒ですが、手間暇がかかるからこそ、新しい発見があり、世界的にも評価される唯一無二の逸品。
その取り組みが、日本酒の新たな可能性を開拓していることは間違いありません。
地場で採れた山田錦をその地の水で醸していく自然な酒造りを目指す老舗酒蔵が、自然の力に加え「時間」という未知の領域に踏み出し、これからどんなお酒を醸してくれるのか?
兵庫県産山田錦のポテンシャルを引き出す意味においても、一層の期待が寄せられています。

地元である三木市の最高品質の山田錦を原材料に使用しています。
右は玄米、左は50%精米後。

大正後期に建造された貯蔵庫も国登録有形文化財(建造物)に登録されています。
| 施設名 | 稲見酒造株式会社 |
|---|---|
| 住所 | 三木市芝町2-29 MAP |
| 定休日 | 土・日曜日、祝日 |
| 電話番号 | 0794-82-0065 |
| 営業時間 | 9:00〜17:00 |
| 駐車場 | 有 |
| アクセス | 神戸電鉄三木上の丸駅 徒歩7分 |
| HP | 稲見酒造株式会社【公式HP】 |
| 問い合わせ先 | 北播磨県民局 加東農林振興事務所 |
|---|---|
| 住所 | 加東市社1075-2 MAP |
| 電話番号 | 0795-42-9422(平日9:00〜17:00) |
| アクセス | JR社町駅 車10分 |
| HP | 北播磨県民局 加東農林振興事務所【公式HP】 |
| その他 | お問い合わせの際は「まるはりorみたい」を見た。とお伝えいただくとスムーズです。 |

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