【加東】"兵庫の酒米『山田錦』生産システム"が日本農業遺産に認定!Vol.5|③「兵庫県産山田錦」総まとめ
全国の酒造家から絶大な信頼を得る兵庫県産山田錦。
2025年1月に「兵庫の酒米『山田錦』生産システム」が日本農業遺産に認定されたことを機会に、兵庫県産山田錦をシリーズで解説する企画も最終回を迎えました。
2025年3月号を皮切りに、認定の決め手となった評価ポイントごとに
2025年8月号は、1.気候風土「酒米買うなら土地見て買え」
2025年10月号は、2.技と情熱「倒して倒さず」
2025年12月号は、3.酒米の価値「酒米の王者」
2026年3月号では、山田錦のポテンシャルを掘り下げました。
約1年にわたる取材を通じて、山田錦の生産者をはじめ、酒造家や行政機関、農業協同組合など、さまざまな立場の人々の尽力が品質を支えていることがわかりました。
全5回の兵庫県産山田錦のシリーズ企画、最後は全体を集約する総まとめをお届けします。
気候風土「酒米買うなら土地見て買え」

2025年1月に「兵庫の酒米『山田錦』生産システム」が日本農業遺産に認定されました。
「酒米買うなら土地見て買え」。
これは、古くから酒造家の間で語り継がれてきた格言で、良い酒米ができるのは、気候や土壌などの条件が重要であるという考えから来ています。
日本農業遺産の認定地域は、六甲山系の北側に位置する加東市、小野市、三木市、加西市、西脇市、多可町、三田市、神戸市北区、猪名川町の9つの市町。
六甲山系の山々が、夏場の暖かく湿った空気を遮断し、夜間の温度が低く、昼夜の寒暖差が大きいことが特徴です。
稲穂のなかに栄養分を蓄える8月下旬から10月の登熟期は、夜の気温が低いほどお米の中のデンプンを合成する酵素の活性が高まり、デンプンが十分に蓄積され、心白の発現が良好で、充実したお米になります。
日照時間が長い瀬戸内海式気候も、晩生の稲である山田錦の生育に適しています。
また、認定地域は疑灰岩、疑灰質頁岩が風化してできた粘土質の土壌。
粒子が細かく、水を吸収して膨らむ性質を持つため、保肥力や保水性が高く、肥料や水が長持ちします。
加えて、稲の生育を豊かにするマグネシウムやカルシウムも豊富です。
地形、気候、土壌どれをとっても山田錦の栽培には理想的な環境。
この気候風土が、良質な酒米を育てる前提条件と言っても過言ではないでしょう。

灘五郷酒造組合の原料対策委員会の委員長、西向賞雄さん。
「最適な土壌と気候が良質な山田錦の生産には欠かせません。
凝灰岩または頁岩が風化してできたミネラルに富んだ粘土質の土壌。
そして、登熟期となる8月下旬から10月にかけて昼夜の寒暖差が大きいこと。
その条件にぴったり合うのが山田錦の特A地区といわれるエリアです」とお話しいただきました。

兵庫県産山田錦の栽培地域の土壌は、古第三紀中期始新世から初期にかけて形成された「神戸層群」。
三木市吉川町の農地整備でこの「神戸層群」の地層があらわれました。
技と情熱「倒して倒さず」

他の酒米と比べても背丈が高く、米粒が大きく重い山田錦の栽培には、高度な技術が求められます。
収穫時期は、生産者の努力の結晶ともいえる「倒して倒さず」と表現される特徴的なランドスケープが広がります。
山田錦の千粒重は約28gと大粒です。
背丈が高いうえ、稲穂が重い山田錦は、昔から「倒して倒さず」と呼ばれ、地面につく寸前まで穂を垂れる姿が良質な酒米の証とされてきました。
米粒を大きく生育させるためには、適正な施肥が肝心となりますが、根元の茎が長く伸びすぎると、倒伏のリスクが高まり、少なすぎると栄養不足になるなど、栽培には高度な技術が求められます。
殿畑営農組合の山﨑組合長の話によると
「重要なのは、穂肥(ほごえ)と呼ばれる穂が出る(出穂)前に施す追肥の施用時期です。
山田錦の穂肥は、昔から出穂の20日前と10日前、各1回ずつ施すのが最良と言われてきました」とのこと。
出穂の20日前、10日前の判断基準は、茎の中に形成された小さく柔らかい穂の赤ちゃん、幼穂(ようすい)の生育状況を見極めること。
こまめにほ場を回って、茎数や草丈、葉色などを確認。
数か所からサンプルの茎を抜き、茎を縦に裂いて幼穂を露出させ、その長さを目視で確認し、穂肥のタイミングや量を決めていきます。
穂肥は倒伏させず、刈り取りまで米を太らせる、品質と収穫量を確保する重要なプロセスなのです。
近年は温暖化の影響から夏場の気温が上昇し、田植えの時期を遅らせるなど、施肥管理をはじめ、良質な酒米の生産はますます難しくなっているとか。
「酒米の王者」と呼ばれる兵庫県産山田錦の品質を守り続けているのは、まさに生産者の技と情熱。
長年培ってきた経験と知識、新しい技術の導入など、日々のたゆまぬ努力が「倒して倒さず」を実現しているのです。

三木市・殿畑営農組合組合長、山﨑広治さんは、稲の種もみを直接まく「直播(ちょくは)栽培」の実践やドローンなどスマート農機の導入をはじめ、さまざまな取り組みを推進されています。
持続可能な農業を目指すためには、新しい技術や農機の活用により、労力の省力化を図ることが大切なのだそうです。

イネの茎の中心にできる、まだ未発達な穂の赤ちゃんのことを幼穂(ようすい)といい、その大きさで穂肥(ほごえ)のタイミングを見極めます。
酒米の価値「酒米の王者」

兵庫県は1928年に全国唯一の酒米専門の研究機関「酒造米試験地」を開設。
後に名称を「酒米試験地」と改称し、酒米の新品種育成、栽培技術の開発や研究などを行い、兵庫県産山田錦の生産性の安定化や品質の維持・向上を支えています。
写真は現在の兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 農産園芸部「酒米試験地」の「酒米研究交流館」。
山田錦は兵庫県で初めて交配育種法で育成された水稲品種です。
1923年に兵庫県立農事試験場種藝部(現:兵庫県立農林水産技術総合センター農産園芸部)で、山田穂(やまだぼ)を母株に、短稈渡船(たんかんわたりぶね)を父株として人工交配が行われました。
山田錦の千粒重は、食用米「コシヒカリ」と比べると1.2倍の約28gと大粒で、米の半分以上を磨く大吟醸酒などの醸造に適した高精米が可能です。
また、お酒の雑味のもとになるタンパク質が少なく、粒の真ん中に心白(しんぱく)と呼ばれるデンプンの塊があります。
お米の中への吸水が良く、麹菌が菌糸を伸ばしやすい特徴を持つこの心白は、良質な麹づくりに欠かせない要素。
山田錦の心白の発生率は70~80%と高く、また、兵庫県産山田錦の心白はお米の断面では線状の薄い状態になっており、「線状心白」と呼ばれています。
「線状心白」は高精米にも耐え、良質の麹造りにつながります。
粒張りが良い大粒、心白が大きく低タンパク質と、良質な酒米に求められる条件すべてを備えた兵庫県産山田錦は、まさに「酒米の王者」と呼ばれるに値する品質を備えています。
さらに、兵庫県では山田錦の品質を守るために、徹底した種子管理を行っています。
これは、稲を自然に育てていると、突然変異が起こることがあり、そのリスクを分散するため。
複数の系統で兄弟をつくり、遺伝的形質を守る種子生産システムです。
酒米試験地で管理する兵庫県産山田錦の大本「育種家種子」から、4段階の過程を経て、厳密に生産された「採種」から育った酒米だけが、兵庫県産山田錦の名を冠することができるのです。
種子生産システムは、兵庫県にしかない唯一無二の山田錦を守る重要な役割を果たしています。

酒米試験地で研究員を務める池上勝さんは、30年以上を酒米の品種育成や栽培技術の開発に携わってきた山田錦のマイスター。
池上さんや酒米試験地のスタッフは、遺伝的な純度を保つための育種家種子の管理を担う、まさに「山田錦の守り人」と言える存在です。
多彩な商品開発で顕在化する山田錦の可能性

三木市に位置する「道の駅よかわ」の日本酒コーナーには、日本農業遺産認定ののぼりが、高々と掲揚されていました。
恵まれた気候風土に加え、伝統的に継承されてきた生産者の技術力、全国唯一の酒米専門研究機関で交配育種法によって育成された品種としての優位性、遺伝的形質を守る種子生産システムなど、さまざまな立場の人たちが兵庫県産山田錦の品種の価値を高め、その品質を守り続けていることがわかりました。
また、酒米の産地と特定酒造家との間で結ばれる直接取引「村米(むらまい)制度」も、重要な歴史的背景です。
酒米の産地と酒造家が、単に売り手と買い手の関係に留まらない強いつながりをもって、二人三脚で品質の向上に貢献してきました。
明治期に始まり、時代とともに消滅しつつある村米制度ですが、一部の地域では現在も継続され、近年、新たに酒造家が特定産地と村米契約を結ぶ動きも出始めています。
日本で最初に純米酒宣言を発表し、地元の加西市で収穫された米だけで酒造りをする「富久錦」、熟成古酒を研究して世界最高峰とされるコンクールで高評価を得る「稲見酒造」、自慢の麹を使った麹スイーツといった新商品開発に果敢に挑む「神結酒造」など、目覚ましい進化を遂げる認定地域の老舗酒蔵の取り組みも注目に値します。
さらに、今号で紹介した「山田錦バウム」をはじめ、兵庫県産山田錦を使った洋菓子やパン、三木市吉川町で開発された純米酢「美人酢」、道の駅よかわオリジナルの「山田錦みそ」など、日本酒以外の加工食品も続々と登場。
山田錦の田の土で素地を作り、山田錦のわら灰を使った釉薬を回しかけて焼いた酒器、山田錦の稲わらによる菰縄づくりなど、食品以外の活用方法も開発されています。
6次産業化や他産業との連携によって、兵庫県産山田錦の可能性はより一層広がっていくでしょう。
私たちの未来にとって大切な、伝統的な農林水産業を次世代に残すための取り組み、日本農業遺産に認定された"兵庫の酒米「山田錦」生産システム"。
兵庫県が誇るこの農産物を、これからも意識を傾けて注目し、応援していきたいものです。

三木市内でスイーツの6次産業化を進める農業法人稔樹(みき)が手掛ける「山田錦バウム」は、ファイナルクーヘン総選挙2025で1位を獲得しました。

加東市秋津に登り窯を構える東条秋津窯の「山田錦の器」。
山田錦を栽培する田の土で成形した器に、山田錦のわら灰を使った釉薬を回しかけて焼いています。
| 問い合わせ先 | 北播磨県民局 加東農林振興事務所 |
|---|---|
| 住所 | 加東市社1075-2 MAP |
| 電話番号 | 0795-42-9422(平日9:00〜17:00) |
| アクセス | JR社町駅 車10分 |
| HP | 北播磨県民局 加東農林振興事務所【公式HP】 |
| その他 | お問い合わせの際は「まるはりorみたい」を見た。とお伝えいただくとスムーズです。 |