食と農を守るかあちゃんずの『ゆずみそ』
温暖な気候に育まれた香り高い果物、豊かな水系が生み出す農産物。
そして、瀬戸内海の複雑な海流が生み出す海産物と、西播磨は魅力的な食材の宝庫です。
瀬戸内海に面した赤穂市、相生市、たつの市から内陸部に位置する宍粟市、太子町、上郡町、佐用町と変化に富んだ地理的な環境から、多彩な特産物が育まれています。
2012年にスタートした「西播磨フードセレクション」は西播磨のおいしい農林水産物を使った個性豊かな加工品の発掘やPRを目的に発足。
素材のおいしさを大切に、食べる人への愛が詰まった受賞食品はすでに73点にも上ります。
いずれも、作り手のこだわりが満載の逸品揃い!
そこで、受賞食品のおいしさの秘訣を探るべく、生産者を訪問。
作り手のこだわりや創意工夫、利用者への思いなどをお伺いするインタビューを連載でお届けします。
第2回にあたる今回は、相生市の「食と農を守るかあちゃんず」が作る『ゆずみそ』です。
小河(おうご)ゆずは相生市矢野町小河の特産物。
ゆず果汁100%の『まるごとゆず』は完売必須の大ヒット商品です。
瀬戸内海式気候に属し、1年を通して温暖で過ごしやすい相生市は、海と山に囲まれた自然豊かな街。
江戸時代にはすでに養殖が始まっていたとされる牡蠣、山間部の肥沃な土壌で育つメロンなど、海と山の恵みを受けた多彩な特産物があります。
中でも、相生市の北部に位置する矢野町小河(おうご)周辺には、昔からどの家庭にも柚子の木があったことから、40年ほど前から本格的に栽培をスタート。
お日様をたっぷり浴び、減農薬で育てられた小河ゆずは、華やかに香る品質の高さから、相生市を代表する農産物として知られています。
また、県内産の米と大豆を使用した『若さの味噌』は、35年以上前から若狭野町の女性の手で丁寧に手作りされたロングセラーの特産物。
無添加で優しい味わいが特徴で、兵庫県認証食品にも認証されています。
今回ご紹介する『ゆずみそ』は、そんな西播磨の特産物だけで作った加工品で、2014年に西播磨フードセレクションのグランプリを受賞しました。
手掛けたのは、「地元農産物のおいしさを伝え、食文化と農村地域を守りたい」という思いから活動する女性グループ「食と農を守るかあちゃんず(相生市農村女性連絡協議会):以下、かあちゃんず」。
代表を務める勝谷公美子さんにお話を伺いしました。
『ゆずみそ』『唐辛子入りゆずみそ』『しょうが入りゆずみそ』は各421円(140g)。
便利なスタンドパックで使い勝手も抜群です。
「ゆずみそは昔からある伝統的な食品ですが、従来品は塩辛いものが多く、若い人や子どもが好んで食べるものではありませんでした。
だから、開発時に目指したのは、甘味のきいたおいしさ。
それを実現してくれたのが、『若さの味噌』です」と勝谷さんは開発当時を振り返ります。
『若さの味噌』に砂糖と酒、みりんを加えて丁寧に炊き上げ、ゆずの皮と果汁をたっぷり入れて仕上げる『ゆずみそ』の作り方はいたってシンプル。
余分なものが一切入っていないからこそ、使用する素材には徹底したこだわりがあります。
まず、収穫した完熟ゆずを丁寧に洗い、黄色い皮の部分だけを摺りおろしていきます。
その後、果汁を手絞り。いずれも新鮮なうちに、手間隙かけて仕込んだ素材を保存することで、フレッシュな風味をキープしています。
県内産の米と大豆を使用した『若さの味噌』は、35年以上前から続く伝統の寒仕込み製法を継承し、洗米から、蒸し、放冷、種付け作業とすべて手ぬかりなしの手仕事で仕込んだ後、1年ほど熟成させることで、麹の甘さが際立つ優しい風味の味噌が完成します。
相生市の母ちゃんたちが丹精込めて作った素材を、さらにかあちゃんずが労を惜しまず手作りする『ゆずみそ』は、安全安心なメイドイン西播磨とあって、学校給食にも使われています。
西播磨フードセレクションに加え、2016年にはモンドセレクションの優秀品質銀賞を受賞し、世界に認められるなど、受賞歴も多数。
雑味のない自然の甘味とコクの中に、爽やかなゆずの香りが華を添える滋味豊かな風味が楽しめます。
その軽快なトークと屈託のないキャラクターで人望を集める「食と農を守るかあちゃんず」の2代目代表、勝谷公美子さん。
炊きたてご飯にかけて食べると、『ゆずみそ』本来の味が満喫できます。
甘めの味噌と爽やかなゆずの香り、米麹の粒の食感も心地いいベストオブご飯のお供です。
勝谷さんは「ゆずみそはほかほかご飯にかけてコクと甘み、華やかな香りをダイレクトに楽しむも良し、焼きおにぎりで香ばしさを出すも良し。ピザのソースや肉じゃがの隠し味、マヨネーズを合わせてエビフライやドレッシングにしてもおいしい万能調味料です」と力を込めます。
西播磨フードセレクションのグランプリ受賞をきっかけに、注目を浴びるようになった『ゆずみそ』は、TV番組で取り上げられるほどの人気ぶりに。
しかし、そこで歩みを止めないところが、かあちゃんずの底力。
『ゆずみそ』第二弾の開発に取り組み、『唐辛子入りゆずみそ』を完成させました。
こちらは、甘みの中に唐辛子のピリッとした辛さがアクセントになった大人の味わい。
2016年に西播磨フードセレクションの金賞を受賞しました。
その後、第三弾として『しょうが入りゆずみそ』を開発するのですが、驚くべきことに、唐辛子もしょうがもイチから かあちゃんずのメンバーが栽培したのだとか。
「どうせやるなら、すべて自分たちの手で作った確かなものを使いたいとチャレンジしたんですが、しょうがは特に大変で...。
2024年は夏の日照りや雹が降るなど、予想外の気象にも悩まされました」と自然相手の農業の難しさにも言及。
『ゆずみそ』のおいしさは、かあちゃんずのたゆまぬ努力の賜物と言っても過言ではありません。
35年以上、地元で愛され続ける『若さの味噌』もかあちゃんずに所属するグループによる手作り。
自然発酵による無添加の美味しさが好評です。
1年間使用するゆずを、ひとつひとつ手作業で皮の擦り下ろしをしていきます。
この手間隙がおいしい『ゆずみそ』の源泉です。
かあちゃんずが発足したのは2007年のこと。
勝谷さんが所属する「小河ゆず栽培組合加工部」、若さの味噌を作る「若狭野みそ加工グループ」、農産物の加工品やお弁当などを作る「コスモスの里工房」など、別々に活動していた6つの女性農家グループが、相生市農林水産課の声がけで集まったのがきっかけです。
「かあちゃんず結成のきっかけは、それぞれが学校給食に携わっていたので、横の繋がりがあった方が良いということが発端。
でも、最初は何をどうすればいいのか、発言する人もいなかったんです」と笑う勝谷さん。
活動するにあたって、自分たちの名刺がわりになる商品が必要だと考え、最初に考案されたのが『ゆずみそ』でした。
その後も、自分たちの商品を作るほか、地域の農産物を促進するイベントの開催など、精力的に活動するかあちゃんず。
相生市の農業振興と地域活性化を目指し、地産地消の推進、都市と農村との地域交流、子どもたちへの食育活動など積極的に取り組んでいます。
生まれも育ちも相生市の勝谷さんは、「私たちの目的は、あくまでも相生市のPR。相生市で育つ子どもたちに安全でおいしいものを食べてもらいたい。高齢になっても、みんなでワイワイ言いながら働ける場所を提供したい。相生市の魅力を広げるお手伝いができることが励みになっています」と相生市への熱い思いを話してくれました。
かあちゃんずと小河ゆず栽培組合加工部の代表を兼任する勝谷さん。
モンドセレクションの受賞式にはハンガリーのブダペストまで遠征されたとか。
かんぴょうの加工は、大きな夕顔の実を幅3cm、厚さ3mmほどの帯状にむいていきます。
専用機械を使って、かあちゃんずのメンバーが手際よく加工していきます。
かあちゃんずが新たに手掛けているのが、相生野瀬かんぴょうの復興です。
かんぴょうは直径40cm前後と大きく育つ夕顔の実を加工したもの。
最盛期には50軒ほどの農家があった相生市野瀬地区のかんぴょうは、柔らかくて出汁が染みやすいと仲買人が競って買い付けに来た人気の産地でした。
しかし、生産者が減少し、数軒を残すのみに。
「このまま放置していては、相生市の伝統野菜が失われてしまいます。確かに、栽培にも加工にも手間はかかりますが、未来の子どもたちに、ぜひ野瀬のかんぴょうを食べてもらいたいという想いで、栽培・加工技術の確立に取り組んでいます」と勝谷さん。
かあちゃんずで在来種を譲り受け、栽培をスタート。
天日干しで無漂白に仕上げた野瀬のかんぴょうは、水洗いして軽く茹でるだけで柔らかくなり、漂白処理をした商品とはあきらかに異なる、ほんのり甘い自然な旨味が味わえます。
栽培から加工、干し作業まで、全工程をかあちゃんずが担当。
巻き寿司はもちろん、天ぷらやシチューにしてもおいしい相生野瀬かんぴょう(378円)。
相生市をこよなく愛し、相生市の農産物をどんどん進化させていくかあちゃんず。
その愛情がたっぷり詰まった食品たちは、一度食べるとやみつきになること間違いありません。
かあちゃんずはいろいろなイベントに積極的に参加しており、そのイベントでは加工品を使った料理や限定品がお目見えすることもあります。
インスタをチェックして、ぜひ一度試してみてください。
食と農を守るかあちゃんず インスタグラム
https://www.instagram.com/kaacyans/