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瓦細工師・鬼師 安川清泉
瓦細工師・鬼師 安川清泉
鬼瓦工房 清泉
安川清泉
瓦一枚一枚に込められた、先人の思いと技を後世へ。
20年以上にわたり姫路城の瓦の修復や復元を手がける
瓦細工師・鬼師 安川清泉さんに聞く

平成の修理を経て、まさに白鷺のごとく美しい姿に生まれ変わった姫路城。
外壁に施された漆喰に加え、日差しを浴びて銀色に輝く独特の「いぶし瓦」が、お城全体の白さをいっそう際立たせます。

今回ご登場いただく安川清泉さんは、姫路城各所の瓦の修復や復元に携わってきた瓦細工師・鬼師のお一人。
鬼師とは鬼瓦を専門に作る職人のことですが、安川さんは、鬼瓦はもちろん、一般家屋でもおなじみの平瓦や丸瓦から装飾性の高い軒瓦や鯱瓦まで、多種多彩な瓦を製作しています。
長年、姫路城をはじめ各地の国宝級建築物の瓦を作り続けてきた安川さんに、製作中のご苦労や瓦細工師・鬼師としての心得を語っていただきました。

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―――瓦細工師・鬼師を志したきっかけは?

母の実家が瓦屋を営んでいたので、正月やお盆など帰省するたびに祖父が瓦を作る姿を見てきました。
時には瓦造りで余った粘土をもらって、あれこれこしらえたり、遊んだり。
思えば、子どもの頃から自分の手で何か作り出すことが好きだったんでしょうね。

実は、岡山の工業高校を卒業して製鉄所に勤めるつもりだったのが、直前で大病にかかってしまい、就職を断念。
ちょっと大げさだけど、それで人生観が変わりました。
治ってから他の仕事に就いたものの、何か違うな...と。
一念発起して、祖父が営む製瓦店で働いていた職人さんの元に弟子入りしたんです。

―――10年余りの修業時代を振り返って。

最初の親方の弟子時代は、仕事が終わり親方が帰った後、ひとりで工房に残り、深夜まで夕食を食べ忘れるくらい集中し、鬼瓦や好きな置物を作っていました。
今考えると一番楽しい時間だったのかもしれません。
その後、別の親方の元でも働いて、鬼師としての技術を磨いていったんです。
2人の親方には瓦造りのイロハから始まり、本当にたくさんのことを教えてもらいました。

独立したのは 30歳を過ぎてから。
修業時代も辛いことはありましたが、本当に苦労したのは独立してからですね。
親方と一緒なら、分からないことがあってもすぐ訊けるけど、自分一人だとそうはいかない。
親方の有り難みを改めて実感しましたね。

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存在感ある置物から日常使いの器まで、ところ狭しと並ぶ作品の数々。

―――例えるなら、瓦造りは山登り。

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瓦は後世まで残るもの。
瓦にも色々なものがあるけれど、中でも鬼瓦は一番目立つところにあるでしょう。
しかも、作った人の名前が刻まれる。
とても名誉なことだし、本当に作り甲斐があります。

ただ、その時は精魂込めて作って、自分でも「良い出来だ!」と満足するんですが、何年か経って見返した時に恥ずかしくなることもありますよ。
「そこをもっと工夫すればよかった」とか。
瓦に限らず、世の中のものづくりって、山登りに似ているんじゃないでしょうか。
目の前の山を登り切って頂上に着く。
一瞬、達成感を味わうけれど、次にもっと高い山に登ると、以前登った山が目下に見えて色々なことに気づく。
そんなことの繰り返しかもしれません。

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―――姫路城の瓦を手がけたのは 2001年から。

お世話になっていた瓦屋さんが、以前からずっと姫路城の瓦修理をしていて、そこから仕事をもらうようになったんです。
それが 2001年、平成13年ですから、もう20年以上になりますね。

私自身は平成の修理には関わっていないのですが、ほぼ毎年どこかしらの瓦を担当しています。
去年は門、今年は廊下...というふうに年ごとに修繕する場所を割り当てられて、およそ30年でひと巡り。
そうやって絶えず手を入れ続け、大勢の職人たちで姫路城全体を維持管理しています。

―――何百年も前の瓦を目の当たりにして。

皆さん、鬼瓦というと鬼の顔がついた瓦を思い浮かべますよね。
でも、鬼瓦は本来、屋根の両端から雨が入るのを防ぐもので、厄除けや魔除けの意味合いもある装飾屋根のこと。
なので、鬼面だけではないんです。
屋根の先端にある軒瓦もそうですが、姫路城にはその時々の城主の家紋が入っていたり、縁起物がモチーフになっているものもあります。

姫路城の仕事をするようになって、築城当時から明治時代まで、たくさんの瓦を実際に見てきました。
不思議なことに、古いものほど頑丈に作ってある。
姫路城に限ったことではありませんが、昔の瓦の方が長く持つようにしっかりと丁寧に作られているんです。
手を抜かないという点では、軒瓦もそう。
江戸時代の初期までは重なって見えない部分にまで装飾が施されていたのに、後の時代は隠れてしまう部分には模様が無い。
良いようにとらえれば、作業の効率化なんですけど(笑)。
でも、何百年も前のものがほぼ当時のままの姿で残っているのを見ると、同じ職人として感慨はひとしおです。

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時代と共に移り変わる軒瓦についての説明も。

―――瓦細工師・鬼師として心がけていることは?

一番は、手を抜かないこと。
どんな瓦を作るにしても、その時の自分ができる精一杯の仕事をするということです。

姫路城では鬼瓦を22個、鯱瓦を3個、これまでに作らせてもらいました。
基本、簡単な修復で事足りるなら、部分的に直してそのまま使う。
かなり傷んでいる場合のみ、昔のものを見本にして復元するんです。
瓦には手がけ職人の名前と住所も刻んであるので、そこへ訪ねて行って子孫の方に会ったり、お墓に手を合わせたりして、少しでも作った人の気持ちに近づけるよう心がけています。
見た目や技術的なことはもちろんですが、作った人の思いも込めてこそ、良い仕事、良い復元ができると思うんです。

―――時を経て思う...瓦は自分の分身。

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鬼瓦作りに打ち込む安川さん。

瓦を作っていて何より嬉しい瞬間は、その瓦に自分の名や年号を入れる時。
名前を刻むのは誰に自慢するのでもなく、自分自身がやり切った、作り切ったという証です。
あとは、無事に焼き上がって、屋根に据えられた時も嬉しいですね。自分が作ったものがこうしてずっと残っていくんだと誇らしく思うのと同時に、どこかホッと安心します。

地元だけでなく各地から依頼があって、遠くは九州や東北の寺社の瓦も製作しました。
何年か経って訪ねていくと、屋根に自分の作った瓦がある。
何とも言えない懐かしさが込み上げて、「おー、お前も頑張っているな」と自分の分身と再会したような気持ちになるんですよ。
やはり、自分自身の手で作り上げたものだからでしょうね。

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削る部分に応じてヘラを使い分け、徐々に鬼の面が出来上がっていく。

―――工房の陶芸教室には外国人の姿も。

当工房では陶芸教室や一日体験教室も開いているんですが、最近は外国人の方も来られるようになりました。
それで、私も一年半ほど前から英会話を習い始めたんです。
先日も神戸大学へ留学しているドイツ人の方が、帰国する前に記念になるものを作りたいと訪ねてきました。
以前なら断ったところですが、何とか英語でコミュニケーションが取れたので、最後まで乗り切れました(笑)。
近頃は自宅用の食器とか、ひょっとこやおかめの置物とか、眺めていて心が和むものを作るのが楽しいですね。

―――最後に、安川さん的姫路城の見所アドバイスを。

普通、屋根の先端にある軒丸瓦は接合部分が直角なんですが、姫路城のは斜めになっている。
作業台に傾斜をつけるなど作る際には大変苦労しました。

城主が変わるたびに家紋も変わるので、榊原家なら源氏車、酒井家なら剣片喰と、家紋の違いを見つけるのも面白いですよ。
もっと古いものになると銀杏葉とか茎のついた菊の花とか、縁起物の鏑矢なんかもあります。
また、鯱も時代によって顔やヒゲの数が違う。
そんなところも探して見比べると姫路城を訪ねるのがもっと楽しくなるかもしれませんね。

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【PROFILE】

本名 安川敏男。
1963年12月17日、姫路市出身の両親のもと神戸市で生まれる。
幼稚園から岡山県内で過ごし、22歳の時、製瓦店をしていた祖父の縁もあって姫路市の瓦職人に弟子入り。
10年ほど修行した後、30代で独立し、現在は姫路城や書写山円教寺をはじめ、全国各地の城や寺社の瓦製作・修復に当たっている。
「清泉」という号は、名字の安川に合わせ、その源流となる清らかな泉になぞらえて恩師がつけてくれたものだそう。

【基本情報】

店舗名 鬼瓦工房 清泉
所在地 姫路市四郷町山脇523-4 MAP
電話番号 090-1224-8416
URL  https://oni-seisen.com

Activity 体験紹介

陶芸体験(鬼瓦製作体験,手ロクロ陶芸体験 手びねり 備前焼  その他ご要望のもの)
陶芸体験(鬼瓦製作体験,手ロクロ陶芸体験 手びねり 備前焼  その他ご要望のもの)
鬼瓦工房 清泉
お1人 4,000~円(税込)
中村美夕紀
ライター
中村美夕紀

大学卒業後、出版社やデザインプロダクション勤務を経て独立。
新聞・雑誌の取材、記事執筆をはじめポスター、パンフレット、カタログ、各種ネーミング等の制作に携わる。
現在は芦屋市のほか、郷里である信州にオフィスを置き、関東・中部エリアのクライアントからのオファーにも対応。
広告文案はもちろん、インタビュー記事、ウェブサイトのコピー等、媒体を問わず様々な仕事を手がけている。
コピーライター中村美夕紀のHPはこちら。

http://myu-office.com/index.php
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