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【加西】"兵庫の酒米『山田錦』生産システム"が日本農業遺産に認定!Vol.4|②地元米100%で純米酒を醸す「富久錦株式会社」

【加西】
目次

    加西市内を流れる善防川のほとりにひっそりと佇む富久錦株式会社。

    創業は1839年(天保10年)。
    江戸時代から続く長い歴史を積み重ねてきた老舗が1987年、日本で最初に純米酒宣言を発表しました。

    この大きな方針転換によって、地元の米だけで純米酒を作る原点回帰の蔵に。
    5年の歳月をかけて、1992年には純米酒だけを醸す蔵へと進化を遂げたのです。

    進取の気風を持つ老舗の暖簾を受け継いだ8代目・稲岡敬之さんに、酒米の王様「山田錦」の魅力や農家と築き上げた協力関係について詳しく伺いました。

    「飲みたい酒を造りたい」と地元米100%に

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    姫路市から国道372号線を西へと向かうと善防山の南麓に見えてくるのが蔵の外観に記された「富久錦」の印象的なロゴ。
    右折して善防川を渡ると、昔ながらの佇まいを残す酒蔵の建物が建っています。


    江戸時代位の創業当時から品質第一の方針で、原料米の良さを生かした酒造りを継承してきた富久錦。
    6代目の稲岡輝彦さんが蔵元を務める頃には、出荷量が1万石を突破。
    会社として急成長を遂げていました。

    しかし、ヨーロッパを訪問した際、フランスのブドウ畑に囲まれたワイナリーを見て、工場地帯で行う酒造りに疑問を持った輝彦さんは、品質第一の原点に立ち戻ることを決意。
    5ヵ年計画を実行し、大量生産真っ盛りの1992年に全量純米酒化を達成しました。

    そして、全量純米酒化から間もない1997年には、原料米を地元の加西市内で収穫された米だけに切り替え。
    地元米と蔵の井戸水を使い、山田錦のふるさと播州平野の気候風土がもたらす恵みを際立たせる酒造りを追求してきました。

    そんな先見の明とチャレンジ精神は、富久錦のアイデンティティ。
    8代目を継いだ稲岡敬之さんは、「売れる酒より、飲みたい酒を造りたい」と、米本来の旨さを表現する古式醸造の生酛(きもと)造りに注力する大きな方針転換を酒造業界に先駆けて行ったのです。

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    8代目社長の稲岡敬之さんが手に持っているのは「純米大吟醸生酛造り神代の舞」。
    山田錦の持つ美しい旨みを限りなく凝縮。

    加西市内の契約した特定の田で採れた上質な山田錦を50%まで磨き、富久錦流の生酛造りによって深く何層にも重なる旨みを上品にまとめた逸品です。

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    1987年、今から40年近く前に発表された純米酒宣言が富久錦に残っていました。

    そこには富久錦が大切にし続けている「純米」「地元」「安心」といった、今も引き継がれているエッセンスが記されています。

    米農家との信頼関係が理想の酒造りにつながる

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    秋空に翩翻とひるがえる「富久錦契約田」の旗。
    登熟期を迎えつつある山田錦の稲穂が重そうに頭を垂れています。


    富久錦では、十数年前から加西市内の米農家数軒と栽培契約を結び、酒米を仕入れています。
    生産者にとっては安定した販路と収入が見込め、蔵元は長年にわたる信頼関係に裏打ちされた品質のよい酒米が確保できる、双方にメリットがある仕組みです。

    「富久錦と契約する農家の皆さんは、それぞれが自分の作るお米の価値を上げるためにどうすればいいのかを常に考えています。勉強会や会合を開いたりして、密に情報交換をしながら米作りを年々改善しています」と敬之さん。

    その結果、契約農家の中には水管理やドローンを活用した肥培管理を取り入れて、さらにアップデートを続けているのだとか。
    「話している内容は専門的すぎて、僕自身はもうついていけないぐらい」と苦笑いします。

    丈高く倒れやすい山田錦も今では滅多なことでは倒伏しないと言えるまで、栽培方法を進化させているそうです。

    山田錦を守るため在来種や新種の酒米をも栽培

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    「いかに農家の皆さんと信頼・協力しあえる環境を作っていくかが、純米酒を作っていくうえですごく重要です」と話す敬之さん。


    生産者の高齢化や後継者不足の問題は、加西市の農家でも決して例外ではありません。
    「米農家さんにいい酒米を作ってもらわないと、純米酒だけを作っている私たちのような酒蔵は、立ち行かなくなってしまいます」と敬之さん。

    山田錦の栽培を守るために、農家さんが安定して生活できる契約制度の見直しにも積極的に取り組んでいます。

    機械化が進んだ今でも、丁寧な米作りにはとかく手がかかるもの。
    山田錦の単独栽培だと、どうしても人手がいる時期が重なってしまい、地域で融通しながら使っている農業機械の運用にも支障が出ることがあります。

    そこで、富久錦と契約農家が話し合いながら、山田錦以外の栽培にも乗り出しました。
    山田錦よりも早稲や晩稲の品種を組み合わせて栽培することで、労働力や農業機械を年間通して効率よく配分できるようになりました。

    「もちろん、メインは山田錦。私たちの中で基本中の基本である山田錦の栽培をちゃんと残していくためには、農家さんたちの暮らしを支えていかないといけません。農家さんがこの地で、安心してお米が作れるよう、あらゆる努力を惜しみません」と力を込めます。

    在来種を復刻した弁慶、新種の愛山や兵庫夢錦は、主に「純青」というブランドで展開。
    生酛で仕込み、酒米それぞれの個性を引き出した酒造りに生かされています。

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    農家の方々が丹精込めて育てた酒米を大きな甑で蒸し上げていきます。
    米の表面が硬く内側が柔らかい理想的な状態に蒸し上げることで、質のいい麹が仕上がります。

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    蒸し上げられた米は、米粒がつぶれないように、熟練の杜氏が丁寧に手でさばいて広げ自然冷却していきます。
    酒米のなかでも山田錦は手で触っていてもさらりとして気持ちいいのだとか。

    繊細で美しい味わいが表現できる山田錦

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    富久錦が明治期の酒蔵を改装して作ったアンテナショップ「ふく蔵」の2階はレストランになっていて、地元産の野菜をふんだんに使った「ふく蔵弁当(写真)」など多彩なランチのほかに、酒粕を使ったデザートやコーヒーが味わえます。


    大粒で砕けにくく、でんぷん質が多く含まれる心白があり、低タンパクで低脂質と、良質な酒米の品質基準は多岐に亘ります。

    機器による計測もありますが、肉眼での見極めも大きなファクター。
    富久錦では検査担当1人が、富久錦の酒造りに合わせた水準で等級を審査することで、酒米の出来がダイレクトに反映される純米酒のクオリティを担保しています。

    「ブルゴーニュのシャルドネのように、山田錦といえば播州。気候や地質など、その土地ごとの風土が良質な農作物を育みます。加西市のお米と加西市の水、そして加西市の人で作るのが、富久錦の純米酒です」と胸を張る敬之さん。

    2023年のインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)では、日本酒部門にて出品した山田錦を使った3銘柄がすべて入賞しました。

    「フルーティで芳醇な香りと、ほどよいフレッシュな酸味が生み出されていく山田錦は、やはり私たちにとって唯一無二の存在。これからも私たちにしかできない、加西市を表現するお酒を作り続けていきたいですね」と最後に締め括ってくれました。

    お酒の味わいは、それを醸す哲学から生まれ、哲学はその地域と密接につながる。
    『地域×哲学×味わい=富久錦』をコンセプトにした進取の気風を持つ老舗酒蔵。

    次なる意欲作は、どんな風味に仕上がるのか?
    期待が膨らみます。

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    ふく蔵では、ここでしか飲めない季節限定酒などの提供もしています。
    3種の純米酒を飲み比べることができるおつまみ付きのセットもおすすめです。

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    いわし雲が群れなす秋晴れの空に屹立する煙突は昔ながらの米だけで醸す酒造りを40年近く追求してきた富久錦のシンボルです。

    施設名 富久錦株式会社
    住所 加西市三口町1048 MAP
    定休日 土・日曜日、祝日(直営店ふく蔵は無休)
    電話番号 0790-48-2111
    営業時間 9:00〜17:00
    駐車場
    アクセス 姫路駅より神姫バス(社方面)「法華山口」下車徒歩1分
    HP 富久錦株式会社【公式HP】
    問い合わせ先 北播磨県民局 加東農林振興事務所
    住所 加東市社1075-2 MAP
    電話番号 0795-42-9422(平日9:00〜17:00)
    アクセス JR社町駅 車10分
    HP 北播磨県民局 加東農林振興事務所【公式HP】
    その他 お問い合わせ・ご予約の際は「まるはりorみたい」を見た。とお伝えいただくとスムーズです。
    2025年11月25日時点での情報です。
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