【加東】"兵庫の酒米『山田錦』生産システム"が日本農業遺産に認定!Vol.2|③農業とともに育まれた貴重な自然環境

山田錦の栽培に最適な気候風土に恵まれた兵庫県北播磨・六甲山北部地域ですが、長年、農業用水の確保には苦しめられてきた歴史がありました。
江戸時代以前からすでに始めていた「ため池」づくりや、近代に入ってからの大規模な水利事業など、降水量の少なさを補うための先人が取り組んだ数々の努力。
そして、その結果生み出された地域固有の貴重な生態系など。
農業とともに形成された自然環境も日本農業遺産の認定要素になっています。
農業用水の不足をため池や大規模な水利事業で解消
国営農業水利事業として1951年11月に完成した鴨川ダム。
ダムによって形成された人造湖が東条湖です。
「酒米買うなら土地見て買え」のとおり、気候や地理的条件、土壌など、山田錦の栽培に最適な気候風土に恵まれた兵庫県北播磨・六甲山北部地域。
瀬戸内式気候の温暖で日照時間が長いなどの恩恵を受ける一方で、ひとつだけ不足していた気象条件があります。
それは、年間わずか1,200mm前後と全国平均の3分の2にしかあたらない降水量の少なさです。
もともと農業が盛んな地域とあって、江戸時代以前には山間や丘陵地の谷をせき止めた「ため池」の築造が始まるなど、農業用水の確保には歴史的に苦労を伴ってきました。
特に、農業用水が必要な夏場の降水量が少なく、干ばつの年には集落間での水争いがおきるなど、まさに「用水の一滴が血の一滴」でした。
このような状況を改善するために、1933年には加東市の一部に配水する「昭和池」が、1951年には加東市・小野市・三木市の一部への配水を可能にする鴨川ダムが完成するなど、大規模な水利事業が行われ、農業用水の慢性的な不足は解消されました。
現在、兵庫県の「ため池」は約22,000箇所。
全国1位を誇っています。
ほかにも、建設当時の土木技術では困難とされた「船木池」のアースダム、当時の土木技術の粋を集めた「安政池」、大きな谷を渡る 1,087mもの「曽根サイフォン」や水を公平に配分する「六ヶ井円筒分水」など、高度な農業土木技術を駆使して水利施設が建設されました。
このように、安定的な水利用のためにため池かんがいが発展した地域であるため、干ばつ時の対応のために運用された分水や取水方法などは、現在も「地域の伝統的な知識システム」として踏襲されています。
ため池が正確に記された播州美嚢郡久次村麁絵図18(江戸時代)と同じ場所 の航空写真の比較(三木市史、国土地理院)。
江戸時代から現在に至るまで変わることなく、ほぼ同じため池を活用した農業が営まれていることに驚かされます。
希少生物が生息する特有の生態系を守り続ける
加西市の長倉池は、農業用水を供給する皿状のため池です。
隣接する小野市とともにコハクチョウの越冬南限の地で、例年11月頃やってきて、3月頃にシベリアに旅立ちます(加西市観光協会)。
このように兵庫県北播磨・六甲山北部地域には、豊かな自然景観が広がっています。
農業用水の不足を解消するためにつくられた「ため池」は、希少な湿地植生や池沼植生、希少生物などを育んできました。
例えば、準絶滅危惧種のマダラナニワトンボ、コバンムシ、ヤギマルケシゲンゴロウなどの昆虫や、兵庫県唯一の生育地となる水生植物ヒロハノエビモといった希少種が多数確認されたため池もあります。
また、ため池や水田、湿地が連続する谷間には、希少な湿地植生や池沼植生が分布しています。
周辺の里山には、コナラなどの落葉広葉樹が広がっており、オオタカ、ミサゴ、ハッチョウトンボ、バラタナゴ等の生息情報があるなど多様な生物が生息する環境となっています。
このように、長年にわたる農業の営みや人々の生活によって形成された多様な生物が生育する環境が、現在も、環境負荷を軽減した農業生産や地域ぐるみの保全活動など、地域の人々のたゆまぬ取り組みで、未来に残すべき貴重な生態系が守り続けられています。
日本農業遺産の認定基準のひとつ「農業生物多様性」という観点からも、高く評価されていることにも納得できます。
全国的に減ってきているアカトンボの一種、マダラナニワトンボ(兵庫県のレッドリストで準絶滅危惧種に指定)。
兵庫県北播磨・六甲山北部地域にて観測されています。
問い合わせ先 | 北播磨県民局 加東農林振興事務所 |
---|---|
住所 | 加東市社1075-2 MAP |
電話番号 | 0795-42-9422(平日9:00〜17:00) |
アクセス | JR社町駅 車10分 |
HP | 北播磨県民局 加東農林振興事務所【公式HP】 |
その他 | お問い合わせ・ご予約の際は「まるはりorみたい」を見た。とお伝えいただくとスムーズです。 |