【多可】銘柄鶏のパイオニア、播州百日どりブランドを守り抜く|JAみのり養鶏事業所 所長に聞く

地域特産品のブランド化は、今でこそ珍しくありませんが、今回紹介する「播州百日どり」の品種開発がスタートしたのは、驚くことに高度経済成長期真っ只中の1970年代。
ブロイラー生産にいち早く危機感を抱いた当時の農協職員や生産者が力を合わせ、飼育期間100日という前代未聞のブランド鶏の開発に成功しました。
濃厚なコクと甘みは地鶏にまさるおいしさ、なおかつほどよい食感を持つ、肉厚でジューシーな鶏肉の誕生は、長年にわたる試行錯誤の繰り返しの結果。
そこで、JAみのり養鶏事業所 所長の藤本 博之さんに、そんな播州百日どりの開発秘話や飼育へのこだわり、そして地元ブランドを守りぬくJAマンとしての志などをお伺いしました。
「播州百日どり」の特長
最も特徴的なのは、飼育期間がおおむね100日間ということです。
100日と言われてもぴんと来ない方も多いかもしれませんが、実は一般的な国産若鶏の飼育日数は50日前後。
地鶏肉の規格でも75日以上なので、おおむね100日というのは全国的にも例をみない希少な養鶏方法です。
国産若鶏、いわゆるブロイラーに比べると、播州百日どりの濃厚なコクと甘みは突出しています。
その秘訣こそが、おおむね100日間という飼育日数。
当然、コストも手間もかかりますが、おいしさにまさる価値はありません。
また、平均的な若鶏や地鶏が3kg前後なのに対して、播州百日どりは飼育日数が長い分、約4.3kgとサイズの大きさも格別。
肉厚でジューシー、唯一無二の品質は、名前が示すとおり「百日」飼育の賜物です。
兵庫県多可郡多可町加美区でおおむね100日間飼育した鶏の鶏肉として商標登録を取得し、多可町のブランド鶏として、ご愛顧いただいています。
甘みと深いコク、肉のしまったちょうどいい食感が特長。
そのおいしさから高級レストランからの引き合いも絶えない播州百日どり。
播州百日どりが誕生した歴史は?
多可町では昔から養鶏業が盛んで、ブロイラーの産地でした。
それが、1960〜70年頃の大量生産&大量消費の時代を迎えると、大手商社の参入や価格競争、産地間競争が激化して、多可町でも廃業に追い込まれる農家さんが相次ぎました。
そこで、産地の存続に危機感を抱いた当時の加美町農協(合併し、現在はJAみのり)が、味にこだわった銘柄鶏の開発に着手したのがことの始まりです。
品種の選定はもちろん、餌のレシピや飼育期間、飼育環境など、何度も何度もトライ&エラーを繰り返したそうです。
そんな、たゆまぬ研鑽の末、1975年に「播州地どり(当初の名称)」の開発に成功しました。
実に、50年以上も前の時代に、いち早く差別化を意識した開発を進めたのは、当時の農協職員や地域の生産者さんの熱意や向上心が高かったからでしょう。
今でこそ、地域産業のブランド化は珍しくありませんが、昭和50年代のチャレンジは、まさしく先駆的な取り組みです。
開発時には、生産者さんやひなの専門業社さんなど、地域が一丸となってチャレンジしたと聞いています。
その後もさらなる改良を加え、現在の「播州百日どり」に到達しました。
具体的な品種について
現在の播州百日どりは、ホワイトコーニッシュとレッドブロMの交配種です。
前者は食べやすさを追求したブロイラー系の品種。
後者はフランスの「ハーバード社」で開発された赤鶏で、世界中の美食家を魅了する地鶏、ロードアイランドレッドの血を75%引き継いでいます。
「若鶏は柔らかすぎて、味は水っぽい。地鶏はおいしいけど、硬いのが難点」という消費者にも満足いただけるのが播州百日どり。
味に定評のある赤鶏の豊かな旨味に、柔らかすぎず硬すぎない、ちょうどいい食感を実現しました。
しかも、パサついて調理しづらいむね肉もしっとりジューシー。
唐揚げにぴったりと好評です。
「地鶏・銘柄鶏好感度コンテスト」の最優秀賞をはじめ、コンテストでの受賞歴も多数あり、おいしさには絶対の自信を持っています。
旨味の強い赤鶏のおいしさと食べやすいブロイラーのいいとこどり。
長年の研究により品種開発に成功したそうです。
餌や飼育方法にもこだわりが
一般的な飼育期間が50日程度の養鶏業界で、100日間飼育するために、最も力を注いだのは餌の改良でした。
早く効率よく育つように調合された、ブロイラー用の餌で100日育てても、まず病気になってしまうんですね。
レシピは企業秘密になりますが、長い研究を経て開発された、播州百日どり専用の餌を使用しています。
さらに、自然光や外気がたっぷり入る広々とした鶏舎で、地面に放して飼う、いわゆる「平飼い」によって、自然に近い環境を用意しています。
もともと多可町は総面積の約80%が山林という、自然あふれるエリア。
キレイな空気や水も鶏たちを健やかに育ててくれます。
また、昨今は鳥インフルエンザなどの伝染病対策も重要です。
生産者や職員が定期的に講習を受けて、衛生管理も徹底的に行っています。
地鶏の認証基準よりも広い1㎡あたり8羽以下の空間を確保し、のびやかに育てています。
全国的にも珍しいJA直営のブランド鶏
以前は加古川の方でJA直営の養鶏業をやっておられましたが、そこはすでに民営化されたので、品種改良から農家さんへの飼育指導、生産加工から販売、ブランディングに至るまで、JA直営で運営するブランド鶏を持っているのは、私たちぐらいなのではないでしょうか。
JAの役割は地域農業の発展、生産者さんの生活向上への貢献です。以前、加工場の民営化も話には出たそうですが、利益優先の株式会社では成立しない面が多々あります。
実際にコロナやウクライナ情勢から、餌に使用する輸入品が高騰。
経営的にかなり厳しい事態に直面しましたが、どうにか事業を存続してこられたのは、公共の利益を目標とするJAだから。
地域ブランドを守り続けるために、徹底した品質管理と安心安全な商品提供を担保することが私たちの職責だと思っています。
品質管理や安全面への徹底もJA主導
品質の要は、なんといっても飼育を担っていただく農家さんです。
飼育方法や給餌など、規格の遵守を前提に、JAと全量買取契約をした農家さんに尽力していただいています。
出荷14日前からは抗生物質・抗菌製剤無添加の飼料を給餌することで、残留農薬ゼロを実現。
また、孵化したひよこを健康な若鶏に育てる育雛場(いくすうじょう)や加工場もJA直営です。
加工では、熟練職人が全工程を丁寧に手さばき。
兵庫県から派遣された獣医師による全羽検査や有資格者による3段階検査など、安全面のチェックも徹底して行っています。
そして、加工場でさばいたその日に直接出荷。
鮮度にも配慮し、安心安全な百日どりをお届けしています。
食の安全が話題にもならない時代から、生産から販売までJAが管理してきました。
だから、いつ出荷された鶏肉か?どこの鶏舎で誰がどのように育てた鶏なのか?ひなの段階からすべて明確です。
安全性にかけては万全の管理を行っています。
地域ブランドを守るために、品質管理や安全対策など多方面で活動する藤本さん。
播州百日どりが購入できる場所は?
現在、生産農家さんは5軒。
年間生産量は14万羽程度なので、実際には大量に流通しているわけではありません。
流通の中心はやはり関西で、JA関連のスーパーマーケットや直売所、百貨店、鶏肉専門店などでの販売、JAタウンでのネット販売のほか、ふるさと納税の返礼品にも認定されています。
地域の特産品として、播州では焼鳥屋さんなど、一部の飲食店でも提供しています。
一般的な若鶏に比べると、価格も数倍の高級肉にあたりますが、品質の高さから常に多方面からお問い合わせをいただいている状態です。
生産者も高齢化が進み、喫緊の課題は新規就農者の開拓。
現在、就農希望の若者がIターンで研修を受けておられます。
それに続く担い手の育成には、私たちJAも力を注いでいくつもりです。
2019年大阪サミット時のワーキングランチの松花堂弁当やJR新幹線500系の駅弁に採用されるなど品質はお墨付き。
コンテストの受賞歴も多々。
最後に、お客さまへのメッセージをお願いします
旨味が濃厚なので、個人的には焼いて、塩でいただくのが一番好きな食べ方です。
全国的に知名度が高い銘柄鶏ではありませんが、おいしさには絶対の自信を持っています。
ぜひ一度味わってもらって、感想を寄せていただけるとうれしいですね。
播州エリアの一部の焼鳥屋さんで味わえる播州百日どりは、ほかとは味の違いが歴然。
ぜひ試してみて。
【撮影/宇夫方伸一】
【インタビュー・文/梶井真弓】
施設名 | JAみのり 養鶏事業所 |
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住所 | 多可郡多可町加美区山野部161-1 MAP |
電話番号 | 0795-35-1026 |
HP | JAみのり【公式HP】 |